バブル経済破綻後の家賃
不動産鑑定士 濱本 満

 

T.はじめに

バブル経済破綻により、資産価値は大巾に下落しました。今回は、そうした資産価値から生みだされる家賃について考えてみたいと思います。
 家賃は、資産(土地建物)を利用することによって受けるサービスの対価のことです。預金が利息を生み出すように、土地建物も家賃を生み出します。
預金がなぜ利息を生み出すかといえば、利息は、いますぐ使えるお金が使えないことによる代償であるとする考え方があるからです。それと同様に、家賃も他人に使わせることによって土地建物を使えないことによる代償であるとする考え方があるのです。お金を貸そう(預けよう)としている人も、土地建物を貸そうとしている人も、その代償は大きいと考えているのですから、少しでも利息や家賃が多いほうが良いと考えており、他方、お金や土地建物を借りようしている人は、ご自身の返済或いは支払能力を考え、給料や仕事の中身と相談しながら、少しでも利息や家賃が少ないほうが良いと考えております。ご自身にとって納得できる条件を満たしてくれる先を求めて探し回ることになります。そこに、取引の場、市場というものができます。
 また、利息と預金や家賃と土地建物との関係は、果実と元本(みかんとみかんの木)との関係にあるとする考え方があります。普通のみかんに較べておいしいみかんがたくさんとれる木はみんなが欲しがりますし、高く売れます。
 こうした考え方によって、家賃が決まるといっても過言ではありませんし、家賃の求めかたもこうした考え方によっています。

U.家賃の求めかた
1.新規家賃(正常賃料といいます)の求めかた

新規家賃の求めかたには、次の3つの方法があります。

@賃貸事例との比較による方法

 文字通り、周辺における類似した土地建物の賃貸事例と比較して対象となる家賃を求める方法です。
確かに周辺に類似した土地建物の賃貸事例があればかなり説得力のあるものとなりますが、「周辺に類似した」とはくせもので、土地建物はそれぞれ個性があり、異なっており、加えて賃貸が行われた時とその中味や事情が異なる場合が多く、契約内容を十分検討する必要があって、なかなか一筋縄にはいきません。
しかし、市場のデータを多く集めることによって、少なくとも市場を反映した家賃が求められることは確かです。

A積算による方法

 積算とは、積み上げのことをいいます。なにを積み上げるかといえば、土地建物を元本として、それから発生する果実、つまり土地建物の経済価値に適正な利回りを乗じたもの(純賃料といいます)に減価償却費、修繕費、管理費、損害保険料、公租公課等、一連の必要諸経費を積み上げて家賃を求める方法です。
 前提として土地建物の経済価値や利回りが適正なものでなければなりませんが、対象の個性を最も反映しており、@との関係で検証されているかぎり、個別具体的な方法ということができます。

B営業収益から求める方法

 これは、土地建物が企業等の用に供されている場合、総収益から対象となっている土地建物に帰属する部分を分析して取り出し、その部分を収益純賃料としてAと同様に必要諸経費を加算して求める方法です。
 この方法は企業等の分析が適正に行われてこそ意義がありますが、経営に帰属する部分、営業権に帰属する部分、対象となる土地建物に帰属する部分等の分別が難しく、かなり手間がかかるわりに意見の分かれるところであり、やや説得力に乏しい点が難点です。
 しかし、家賃は、土地建物を利用し、収益を得て、労働、設備、経営、営業権等各要素に収益を適正配分した残余であるとする古典的考え方もあることから、無視することができない方法であることも確かです。

 

実質賃料と支払賃料

 実質賃料は土地建物の経済価値から生じるすべての賃料を意味し、それは保証金、敷金、権利金等の運用益と支払賃料でなりたっています。つまり、支払賃料は、実質賃料から保証金、敷金、権利金等一時金を利用して得られるすべての運用益を控除して求められます。

 

2.継続家賃(継続賃料といいます)の求めかた

前段の通り家賃の求めかたをかいつまんで説明しましたが、前段の家賃は、貸方と借方とが、市場をわきまえたうえで、自由に取り決めるということで、正常賃料といわれております。これに対し、継続賃料とは、すでに貸借がおこなわれていて、それまでの賃料(実際賃料といいます)を改定する場合の賃料のことです。
 継続ということで、いままでの経緯をひきずり、市場の動きとは異なった賃料となりますが、市場の動きを反映する前段の正常実質賃料との関係、物価、所得等経済変動との関係を考えて継続賃料は求められます。その求めかたには、次の4つの方法があります。

@差額配分法による方法

 前段の正常実質賃料とそれまでの賃料(実際実質賃料といいます。)との差額を適正に配分し、それまでの賃料に加算して求める方法です。求める過程で、公租公課等必要諸経費の変動、一時金等の性質等にいうまでもなく十分配慮する必要があります。

Aスライド法による方法

 それまでの賃料になった時から現在に至る間の経済変動率をそれまでの賃料の純賃料部分に乗じ、現在の必要諸経費を加えて求める方法です。

B利回り法による方法

 それまでの賃料になった時の土地建物の経済価値に対するそれまでの賃料の純賃料部分の割合を現在の土地建物の経済価値に乗じて現在の純賃料を求め、これに現在の必要諸経費を加えて求める方法です。

C賃貸事例比較法による方法

前段の家賃の求めかた@と同じですが、契約内容が類似する事例が加わることから、一層類似性をもつ事例の範囲がせばまり、難しくなることになります。

 


 以上が継続賃料の求めかたですが、それまでの賃料をどの時点での賃料とするか、原則的に前回改定時点での賃料をいいますが、それまでの賃料改定の経緯を踏まえて考えることも必要です。

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