V.バブル経済破綻後の家賃

 バブル経済破綻により、地価は下がり続け、大阪圏では、すでにピーク時の1/3から1/4にまでになってしまった地域が多くみられます。
 こうした情況下、金融機関は不良債権を積み重ね、景気は一向回復する兆しをみせず、長い低迷が続いています。
「バブル崩壊後の日本経済は、ちょうど<氷の上で焚火をしている>ようなものであった」これはかって経済企画庁長官であった田中秀征氏の言葉です。
 氷を不良債権、焚火を日本経済にたとえての表現だと思います。焚火を勢いよくしようと思って、ガソリン(経済政策)をぶっかけたところで地表を覆っている氷は解けず、焚火は勢いよく燃え上がらなかった。
思いのほか氷が厚かったということです。
 一方、ガソリンの効果により、平成7年から8年にかけ、当時3.2%という先進国では最高のGDP成長率を示した時期もありました。そして、この期間の所得が増加し、消費が伸び、地価も大巾下落に歯止めがかかかり、誰しも景気が上向くものと期待しました。
 しかし、地表の氷を解かすどころか、消費税アップ前の駆け込み需要が終った後、炎が小さくなって、一段と厳しい寒さが戻ってきました。
 日経予測によりますと、バブル崩壊後の平成5年3月期以降、銀行の不良債権処理損は56兆6千億円にのぼり、その間の業務純収益37兆円を上回ったため、多額の債権、株式、不動産の売却をせまられたが、こうした巨額の処理にもかかわらず、なおバランスシート上に80兆円もの問題債権が残っているとしています。
 不良債権という氷が解けない以上、景気回復に時間がかかり、先行き不安から、投資、雇用、消費等に悪い影響を与えます。企業収益の悪化、雇用・将来所得の不安がら、投資、消費は極度にきりつめられ、家賃もその影響から逃れることはできません。収入、所得が減りますと、費用、支出をきりつめるしかないからです。
 バブル経済破綻後の家賃は、結果的にその期間の経済情勢を如実に反映しています。
 住宅賃料については、「貸家の空室率が高まり、家主が大巾な賃料値下げに踏み切った。」とか、「貸家空室期間が長くなり、入居者がなかなか決まらない最悪の状況にある。」とか報告されています。また、平成9年1月から10年12月の2年間で実質賃料ベース約10%下落しているとの報告もあります。
 事務所賃料は、全国的にかなりバラツキがありますが、平成5年から10年にかけ、大阪の中心的オフィス街で、実質賃料が20〜26%下落しており、東京の中心的オフィス街に至っては、実質賃料が40%〜50%下落していると報告されております。
 以上は住宅・事務所からの新規賃料(正常賃料)報告ですが、消費水準及び売上高の低下により業績が悪化している商業施設にもこの傾向がみられます。
但し、商業施設の場合、住宅・事務所のようにより安い賃料を求めて動くわけにもいきませんので、従来賃料の見直し又は減額請求が主なものです。昨今の景気低迷と賃貸市場の悪化から、新規(正常)賃料が継続賃料を下回るケースも多くなっています。
 こうした場合、少なくとも正常賃料とする減額請求が行われますが、貸主の抵抗もあり、簡単には減額してもらえないようです。納得いかない場合、裁判所の判断にまかせるしかありません。

 

W.おわりに

 家賃の基礎となっている土地建物の資産価値等が大巾に下落して不良債権を拡大させ、景気が悪化し、マーケットもこれに反応しているのですから、家賃の求めかたに従えば、正常賃料までの減額はやむを得ないものと考えられます。正常賃料さえしっかり把握できれば減額に応じてもらえるものと考えられますし、また、正常賃料に及ばない実際賃料は増額こ応じてもらえるものと考えられます。
 そのためには、家賃の基礎となっている土地建物の価格、純賃料を導くための期待利回り、必要経費等が双方納得できるものでなければいけませんし、またマーケットとのからみで、客観性が十分裏付けられているものでなければなりません。
 資産価値が乱高下するのは、経済変動期にはつきもので、投機筋にとって、血涌き、肉踊ることかもしれませんが、一般の人にとって、決して喜ばしい現象ではありません。
 一時でも早く、不良債権を縮小し、資産価値を安定させ、次のステップヘ進みたいものです。

 尚、余談ですが、平成10年6月に成立した「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」(通称SPC法)により、この法律が具体化されれば、不良債権の縮小化が期待されるとともに、土地建物の資産価値や賃料の考え方も変わっていくものと思われます。

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