次に供給者側の均衡点について考えますと、定期借地権を設定させれば保証金と毎年の地代が入金します。
しかし土地は50年間も寝てしまいます。
土地が寝るということを、土地代金相当額が寝るというように考えて、メリット、デメリットの均衡点を計算しています。
計算の対象外としていますが重要なことがあります。
ひとつは供給者にとって固定資産税の負担がなくなるということを無視していることです。
これは土地を資金と考えて計算したためですが、何らかの算式により取り入れるべきでしょう。
さらに土地を資金化するコストを無視しています。
資金化するためには税金も生じるでしょうし費用も必要です。
これらは供給者側の隠れたメリットといえます。
例を挙げてみましょう。5千万円の土地で5百万円の保証金、地代上昇率毎年1%、地価の1.064%の地代なら、1.5%で運用したことと同じことになります。
もちろん供給者にとっては高い利回りで運用したいのですから地代は高ければ高いほどいいわけです。
需要者の均衡点とは、定期借地権により建物を取得した場合と、土地建物を購入した場合と経済的負担額が同額となる地代を示し、供給者の均衡点とは、土地代金相当額の資金を運用したときの利益と同額の利益となる地代を示します。
この立場が異なる2つの均衡点は次のような理由があれば一致する方向へ動きます。
需要者側の計算で銀行の借り入れ利率3%としましたが、現実には50年間一定利率で借り入れることは不可能です。
将来これが上昇すると考えれば定期借地権が有利になります。
また地価一定としましたが将来地価が下がると考えれば定期借地権が有利であり、また地価を自明のものとしましたが、供給者の思惑より地価が高いと考えれば定期借地権が有利となります。
売り物がない場合がこれに当たります。
供給者側にとっては、土地運用にリスクがある場合や、ノウハウがなく適当な土地の運用方法がない場合は、固定資産税の負担消失もあり定期借地権を選択する誘因となります。
需要者は安価であるということで定期借地権を選択するのでなく、冷静な経済計算が必要でしょうし、供給者は土地を資金とみて運用した場合と同額の地代を限度とする、といった割り切りが望まれます。
定期借地権によるマンションの分譲もよくありますが、マンションについても同じように考えられるでしょうか。
マンションの場合は次のような点が異なると思われます。
高度利用しているため地価に比べて建物代金が高く、地代は低くてすむであろうという点と、取り壊し費用が莫大なものになり、しかも購入した場合は、事実上所有者全員一致でなければ取り壊せない、という点であります。
高度利用の結果1戸あたりの地代が低くなっていると考えられますが、どの程度低くなっているのでしょうか。
供給者にとっては土地代金相当額の資金運用で十分であろうし、それ以上のものは地代を低くするべきでしょう。
具体的な事例を分析すれば興味のある資料になると思われます。
取り壊し費用については、定期借地権によりマンションを購入し50年経過すれば取り壊し義務が生じます。
しかし土地も共に購入している場合であっても取り壊さなければ土地代金を回収できません。
阪神大震災の例が教えるように、多数の土地建物所有者がいる場合、現実の取り壊しはかなり困難です。
土地を更地化する事ができず、土地代金が戻らないということになったら、土地を購入することはきわめて不利になります。
定期借地権の場合の取り壊し義務が、取り壊し費用の自己負担額を支出すればよいのか、現実に取り壊す責任が建物所有者全員に生じるのか不明ですが、供給者との間で明確かルールがあれば解決可能でしょう。
保証金を取り壊し費用の担保とすること、取り壊し費用を定期的に見積もること、積立金を毎月拠出し特別の預金とすること等です。
このようなルールがあれば、定期借地権による建物購入者は、保証金とか積立金を拠出することで取り壊し責任から逃れ、供給者は十分な担保を取っており確実に取り壊すことができます。
マンションについては、土地を購入するよりも、そこそこの保証金と低い地代による定期借地権によるマンションのほうが合理的である、とする考え方が一般化すれば、土地付きマンションの価格は下がるでしょう。
平成4年8月に定期借地権という新しい法律が施行されてから、これこそが日本人の土地に対する考え方を変化させる起爆剤になると考えて、我々pctメンバーは研究してきました。
現実に濱本不動産鑑定士は、定期借地権によってご自宅を購入されました。
しかしまだまだ定期借地権により優良物件が十分に供給されているとはいえません。
現在定期借地権による分譲を促進しているのはハウスメーカーであり、建物建設による利益を求めてのことであります。
もう一つ広がりを見せない原因として、土地所有者に対する税法上の誘因が、固定資産税の軽減はありますが、相続税や所得税からみて少ないという点があります。
税法にこのような役割を期待するのは筋違いかもしれません。
しかし定期借地権を設定された土地の評価や、保証金の債務控除の問題や、保証金の経済的利益に対する課税等について、杓子定規すぎるという印象を持っており、もう少し柔軟な措置をお願いしたいところであります。今回はこの税法の解説を行ってはおりませんが、定期借地権にとって本質的問題である地代について、未熟ながら一つの考え方を示そうといたしました。
土地を所有するのでなく、利用するところに価値があるとする考え方を一層推進し、定期借地権制度の普及に少しでも役立てば幸いです。
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