2.区分所有法上の「復旧」又は「建替え」

 これに対して法律は、「建物の区分所有等に関する法律」第61条以下に「復旧」又は「建替え」に関する規定を設けています。
これによると、 大規模の被害を受けたマンションを「復旧」する場合は「区分所有者及び議決権の各4分の3以上」の多数で復旧する旨の決議をします。
この場合、復旧に賛成しない区分所有者は、賛成した区分所有者に自己の区分所有権及び敷地利用権を時価で買い取ることを請求することが出来ます。
 逆に「建替え」を行う場合は次の要件が必要になります。
「建物がその効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要する」場合に「区分所有者及び議決権の各5分の4以上」の多数で、建替えする旨の決議をすることが出来ます。
 この場合、建替えに賛成した区分所有者(買い受け指定者を含む)は、反対者(無回答者を含む)に対し、催告期間の経過後、区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すことを請求することが出来ます。
 しかし、この決議成立の要件である「過分の費用」という要件の基準が非常にあいまいであるため、当該マンションの維持回復にどの程度ならば過分で、どの程度なら過分でないかが問題となります。
様々な専門家の意見や客観的なデータを準備するのですが、当事者双方の利害が大きく関係する要件だけに、最終的には裁判所にその判断を委ねなければならない場合があります。

3.被災マンションの解体の困難さ

 上記の様に建替決議は、本来全員合意であるべき成立要件を、一定の場合に緩和(5分の4)していますが、その一方で、建替えには当然必要な、当該建物の「解体」には区分所有者全員の同意が必要とされています。
 従って、区分所有法による建替決議が成立した場合は、

@決議反対者等に対する催告(決議後、2か月以内)
A決議反対者等に対する買取請求権の行使
  (催告期限後、2か月以内)
B決議賛成者+買取請求権の行使者
  (=区分所有者全員)の解体同意
C解体工事着手

の手順を踏む必要があります。
この中で、決議反対者等との間で訴訟になれば、その長期化が予想される一方、仮処分等を駆使する場合は多額の保証金を準備する必要が生じます。

4.老朽化による分譲マンションの建替え

 分譲マンションという運命共同体の行方を決定するためには、上記の様に様々な問題を克服する必要があります。
しかし、これは被災分譲マンションに限った問題ではありません。
今、皆さんが居住している分譲マンションや、これから新築される分譲マンションが将来、老朽化した場合にも同様に発生する問題なのです。
 日本における分譲マンションの歴史は、大正12年の関東大震災に遡りますが、当時は「高級住宅」とされたものが「一般住宅」として供給され始めたのは昭和40年代の初期からでした。
大阪では、昭和45年の大阪万国博覧会を契機に、吹田の千里を中心とした大規模マンション群の出現が我々の記憶に新しいところです。
 これらのマンションの耐用年数は一般的に60年といわれていますし、現在の建築技術をもってすれば、その構造体は100年でも維持できるとされています。
しかし、現実に新築後40年も50年も経過したマンションが、将来、設備機器(キッチンやサニタリー等)や、付帯設備(配管、電気設備等)を含め、その時代に適応する能力があるかは、非常に疑問といわざるをえません。
 従って、それぞれマンションがそれぞれの時代に適応する為には、いずれは、取り壊し、建替えすることも視野に入れざるを得ないわけです。
 しかし、様々な価値観、年齢層、所得層を抱えた分譲マンションにおいては、今回の「震災」という非常に特殊な状況下においても、100%の合意形成は不可能に近いものがありました。
まして、(少し我慢すれば)通常に生活できるマンションをあえて解体し、なおかつ、新たな資金負担をすることに対する区分所有者の合意形成は、至難の業といえるのではないでしょうか。
鉄筋コンクリートという100年以上維持できる建物だけに、適正な維持、補修をするにも多額の費用が必要な一方、「建替え決議」も「解体」も出来ず、不便を感じる区分所有者がどんどん退去し、不在住の区分建物が増え、管理費の未払い等から、補修もままならなくなり、将来、分譲マンションがスラム化する可能性が十分にあります。

5.定期借地権付マンションの登場

 ところで、この様に分譲マンションがハード・ソフトの両面において老朽化問題を抱えている中、最近、定期借地権付マンションというものが出てきています。
 この定期借地権付マンションの「定期借地権」は借地借家法第22条に規定される期間50年以上の更新のない借地権をいいます。
従って、マンション購入者は、地主から借地権付きの区分建物を購入し、地主に対しては保証金、地代を支払う一方、将来の解体撤去費用を積み立てると共に、期間満了時にはその建物を解体撤去し、地主に対し土地全体を明け渡すという契約をします。
 定期借地権付マンションのメリットは、購入者にとってその価格の低さです。
一般的には、分譲マンションの7剖−8割の価格で購入できると言われていますし、逆に、分譲マンションと同価格で約2割〜3割も広い専有面積が確保されます。
又、比較的交通の便や生活環境の整った地域に多いのも特徴です。
そして地主にとっては、固定資産税の軽減と、毎月の収入の安定化、賃貸マンションの様な多額の資金負担の無さ、そして、将来確実に土地が返還されるという安心感がメリットと言えます。
 本来、利便性がよく、管理がしやすく、比較的低価格で取得できるのが一番のメリットである「マンション」という居住空間を考えるとき、定期借地権付マンションはその特徴を最大限発揮させるシステムです。
都市における居住空間を「所有するもの」のではなく「利用するもの」へとその価値観を転換させることにより、より豊かなライフスタイルが創造できる訳です。
解決すべき点(地代不払者への対応や解体費等の問題)は社会環境の整備、法律の運用、専門家の知恵で克服し、土地の有効利用はもちろん、社会全体の生活環境や街並みの整備といった観点からも、法律的に50年というサイクルで強制的に建物を撤去し、権利関係の整理を行うと共に、その時代と生活環境にマッチした新たな建築物を構築することは、21世紀に向けて、大いに必要なことではないでしょうか。

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