相続開始後の相続税の節税
公認会計士 増田 進

 

「相続税をどのようにしてうまく節税できるのか?」の問いに対する答えは、おそらく「生前の不動産の有効利用である」というのが一般的でしょう。
 これは、日本人の相続財産のうち7割以上が不動産であり、特に土地を有効活用することで不動産の評価額が大きく下がる場合が多いからです。国の立場からも不動産の有効活用は望ましく、税制面でもその方向へ誘導しています。
 それでは、相続が起きてしまってからはもうどんな節税の工夫もないのか、というとそうでもありません。相続税を申告する実務を行ってきた者として、ここをもう少しこうすれば節税できる、と思うことが時々あります。相続は節税だけでなく、分割と言う大問題があり、そちらに目を奪われてしまって、節税などはどうでもよい、という雰囲気になる時もあります。しかし節税は、相続人全員のメリットです。いくつかのポイントをあげて説明いたします。

 

1.配偶者への税額軽減

 配偶者へ実際に相続財産を分割した時には、子供がいる通常の場合は遺産総額の半分か、1億6千万円のいずれか多いはうの金額までなら、配偶者へ相続税はかかりません。
 例えば、遺産総額が1億6千万円で配偶者と子供2名の相続なら、すべてを配偶者が取得すれば相続税はゼロです。現実にこのようにして分割する人も多いのです。もしも子供に4千万円ずつ分割すれば、子供2名に合計645万円の相続税が出ます。この子供の相続税を節税したいと考えられる人が多いのですが、配偶者の相続時にはどのようになるでしょうか。もし1億6千万円そのままが配偶者の財産として残っていれば、子供2名に1710万円の相続税がかかります。その前の相続で子供に4千万円ずつ分割しておれば、配偶者の財産を8000万円として100万円の相続税です。つまり配偶者の相続まで考えますと、この例では、子供に4千万円ずつ分割することで、9百万円以上の相続税を減らしております。したがいまして、配偶者の年齢が高い場合には、次の相続も考慮して、分割したほうが有利なことがあります。しかし、こういうことを十分わかった上で、なおかつ配偶者が取得するケースもあります。それは、目の前の相続税という資金流出をいやがったり、子供2名について分割方針が決まっていなかったり、又配偶者の節税を別途考えている場合等、それぞれ事情は異なるようです。

 

2.小規模宅地の減額特例

 居住用や事業用の小規模敷地は、80%か50%を減額して評価するという特例があります。実際に分割しなければこの特例はうけられませんが、誰が取得するかによって80%と50%の差があります。居住用なら配偶者が取得すれば、80%減額されます。
 子供が取得する場合は、親と同居しているか、又は持ち家を持たない子供が取得しその家屋に居住するという条件にあえば80%減額されます。
 この時に注意してほしいことは、配偶者なら80%減額され持ち家のある子供の時は50%の減額しか認められないことです。減税特例をうける前の評価で1億円の土地なら、父から母への相続では2000万円と評価された自宅が、子供の時には5000万円と評価されるということです。
 この結果又2次相続について考える必要が増します。普通自宅は配偶者が取得するでしょうが、その時このような大幅な減税特例を受けているということを知っておいて下さい。

 

3.土地の評価

 いつも申告実務をしていて思うことですが、預金や株券を隠そうとする人も中にはおられるようですが、そんなものよりも土地の評価について工夫したほうがはるかに節税できます。路線価による単純評価が実情にあっていない時は、積極的に資料をそえて評価を下げることを考えるべきです。不整形地や崖地や傾斜地等です。特に広大地については、積極的に不動産鑑定士を利用し、鑑定評価によって申告することを考えてみてください。路線価による評価よりもかなり低くなる場合があります。又土地の分割についても、子供2名が共有で取得するよりも、2つに分筆したほうが評価が下がる例が多いです。一体で評価するのと、2つに分けそれぞれを評価し合計したものと、通常は後者のほうが低くなります。そのように分割するには、子供同士の意思疎通が必要であり、争っている状態なら、私のはうも提案できません。分筆の方法によっては、何千万円もの評価額減となるケースもあります。

 

4.納税のための土地売却

 相続税を支払うために、相続財産の一部を売却することがあります。この売却した時の所得税は、相続税を支払うために売却するものということで、相続税申告期限から3年以内でしたら大幅に減額されます。売却用の土地を想定しているケースで、配偶者にもこの土地の持分をつけていることがあります。どうしてと聞きますと、お母さんにも現金が必要だからと言われます。しかし税額軽減があるため配偶者に相続税の納税がおきることはめったにありません。このため、配偶者が所得税の特例をうけることは少ないのです。
 この結果土地を売却すれば、配偶者だけが所得税を支払うケースがよくあります。
相続財産を売却した時の特例をフルに利用できるように子供に土地の持分をつけ、配偶者に現金が必要なら、子供から配偶者へ代償財産として現金を渡すように分割すれば土地売却時の所得税を節税できることがあります。

 

5.今後の相続税

 現在の相続税の税率は、10%から70%まで9段階となっております。これをフラットにし、最高税率を50%程度にするという案が検討されております。
 同時に、相続税の基礎控除(現在、5000万円プラス相続人1名あたり1000万円)を引き下げる案もあるようです。
 このようになると、100人中7〜8名が相続税の生じる資産家の税金であったものが、20名程度になるかもしれません。ごく一部の資産家の心配事であった相続税が、かなり一般化しそうです。関心がたかまると、当然その節税対策もいろいろと考えられるようになります。しかし、誰でもがすぐできる節税対策は、贈与を除いて考えられません。それは、家族状況や財産の内容がそれぞれ異なるからです。相続税について考えるにしても、それぞれの事情を反映させた独自のものになるでしょう。

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